津山市

　羊水に居て影もてり十三夜　　　　　　　東京都　　　菊池　ひろこ

　水を出てより濡れそぼつ水中花　　　　　岡山県　　　名木田　純子

　牛膝ストッキングは可燃ごみ　　　　　　長野県　　　穂苅　ふみ子

　遺言書に転生の欄もものはな　　　　　　群馬県　　　中村　愼六

　傷つきしところが光り薄氷　　　　　　　三重県　　　山田　良一

　戦争を待つてるやうな青バナナ　　　　　大阪府　　　山本　左門

　教へ子とアウシュヴィッツにゆく夏野　　京都府　　　十川　長峻

　ゆふぐれの木橋の先の雛祭　　　　　　　徳島県　　　庄野　いく子

　どんぐりに大事な帽子ありにけり　　　　東京都　　　庭野　治男

　包帯の内は真空冬銀河　　　　　　　　　愛知県　　　神谷　郁久

　避難梯子より月光の垂れてゐる　　　　　岡山県　　　小西　瞬夏

　国葬の真ん中に揺れ猫じゃらし　　　　　埼玉県　　　鈴木　砂紅

　見殺しにして来て永き糸瓜稲架　　　　　神奈川県　　武良　竜彦

　豆の花ぽんぽん咲きて上着脱ぐ　　　　　愛媛県　　　ひでやん

　汗伝ふ魚族の裔の脊椎に　　　　　　　　京都府　　　緒方　順一

　影はみな捨てに来てゐる大花野　　　　　東京都　　　曽根　新五郎

　魚の白き腹を見ている三鬼の忌　　　　　宮城県　　　内山　かおる

　八月の遺影の役の女優かな　　　　　　　岡山県　　　浅沼　利郎

　懐かしき声も来てをり植木市　　　　　　兵庫県　　　国光六四三

　スマホから三月十一日の数　　　　　　　東京都　　　曽根　新五郎

　白桃や老いてもゐないから憂鬱　　　　　徳島県　　　松尾　初夏

　天牛の腹透きとほる夜明けかな　　　　　兵庫県　　　亀田　浩世

　雪をんなとけて輪廻の水になり　　　　　埼玉県　　　益子　さとし

　十五夜の身の内はづす蝶番　　　　　　　兵庫県　　　堀　瞳子

　雪が来さうよ賑やかな千手の手　　　　　大阪府　　　一門　彰子

　時折は婆来て鳴子引きにけり　　　　　　岐阜県　　　大井　公夫

　ブロッコリーいくら切っても木の形　　　長野県　　　蕪

　一光年白鳥の首伸び続け　　　　　　　　神奈川県　　相原　光樹

　棟梁の蝮蛇ぶら下げ早仕舞　　　　　　　栃木県　　　青桐

　フォロワーはひとり背高泡立草　　　　　京都府　　　あしだこういち

　耳たぶの孔が冷たいレノンの忌　　　　　千葉県　　　千葉　信子

　葈耳の子孫遺さぬ我につく　　　　　　　東京都　　　麻香田　みあ

　意識して息をしてゐる広島忌　　　　　　神奈川県　　前島　康樹

　楪の御師の畑のめでたさよ　　　　　　　三重県　　　鶴口　秀子

　異界より恋猫発光して戻る　　　　　　　香川県　　　牛島　火宅

　抱くほどに骨の匂ひや秋風裡　　　　　　埼玉県　　　石渡　清

　ファックスに白紙の混ざる三鬼の忌　　　三重県　　　太田　貴美子

　白帝や足一本出して寝てをりぬ　　　　　東京都　　　鴨居　ひかり

　ポアンカレ予想を薔薇は解いてゐる　　　山口県　　　旺上　林加

　昼火事やうつすらと湧く苦き唾　　　　　東京都　　　白石　久美子