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連載「津山 美しい建築の街 再発見」第4回(最終回)


▲津山まつり「だんじり」
(撮影:津山市)
 

# 稲葉なおと # インタビュー  # 津山美しい建築の街 # 津山まちじゅう博物館構想
 

城西浪漫館2階「浪漫館ギャラリー」と市役所内で、谷口圭三市長と、津山市みらい戦略ディレクターの作家・写真家・建築家 稲葉なおとさんが対談しました。
 
そのダイジェストは「広報津山2月号」に掲載しています。全文をこちらに掲載します。
 
テーマは、「津山 美しい建築の街 再発見
 
全4回にわけて、奇数月(1月3月5月・7月)10日に掲載します。

今回は、その第4回(最終回)。

※連載 第1回はこちら→「津山の建築の魅力とは

※連載 第2回はこちら→「建築再活用を得意とする街 津山

※連載 第3回はこちら→「住民が自慢できる街づくりを
 
 
目次  

津山に伝わる祭りの魅力
 
 
 
 

第4回 美しい祭りの街・津山

津山に伝わる祭りの魅力

谷口稲葉さんが「みらい戦略ディレクター」として、住民の方々といっしょに取り組んでいるテーマの1つが、「住民自身が自慢できる、おみやげグッズ」の開発、もう1つが、お祭りの魅力拡散、ということですが。

 
稲葉まずお祭りですが、その魅力との出会いは、建築の撮影がきっかけでした。
津山ならではの美しい建築を撮ろうと、年間でそうですね、延べ3カ月ほど津山に滞在したんですが。
 
 
谷口そんなに長く。
 
 
稲葉はい。津山の建築に惹かれるうちに、いつの間にか(笑)。
季節の移ろいを感じながら過ごすうちに、季節季節で魅了されたのが、
津山ならではの美しい祭りだったんです。
 
 
谷口最初が建築で、その流れで祭りに、だったんですね。
 
 
稲葉住民の方は、物心ついた時から祭りは日常生活の中にあって、美しい建築の存在には、最近気づいてくださった方も多いと思うんですが。
ぼくは、津山の住民の方々とは逆の流れですね。
 
 
谷口:美しい祭り、ということですが。
 
 
稲葉はい、その通りです。
春は桜の美しさに、夏は花火の華やかさに、そして秋もまた、祭りの美しさに魅了されました。
 
 
谷口:秋はどの辺が美しいと感じられたんですか?
 
 
稲葉2つあるんですが、まずは、「だんじり」に、施(ほどこ)された匠(たくみ)の技の数々ですね。
いうなれば一台一台が工芸品のような美しい彫刻がほどこされている。
造った大工さん同士の、彫刻にかける技量の競い合いの熱気がこう、ゾクゾクするほど伝わってきて。

 

▲津山まつり「だんじり」の彫刻
(撮影:津山市)


谷口:稲葉さんは写真集『津山 美しい建築の街』の中でも、神社の細部の造りに、大工さん同士の技の磨き合いがあると書かれていますよね。
それと似た競い合いが「だんじり」にもある、ということですね。
 
 
稲葉おっしゃる通りです。
「だんじり」には、神社建築以上の技の磨き合いを感じました。
というのも、市内のあちこちに点在する建築と違って「だんじり」は祭りの当日、
大勢の方の目の前に登場するわけですから、より比較されやすいですよね。
造る大工さんとすれば当然、前に造られた「だんじり」のデザインを大いに気にしながら、自分の仕事をされたと思います。
 
 
谷口:そう伺うと、単にデザインや技が凝っているというだけではない熱気みたいなものが、伝わってくる気がしますね。
 
 
稲葉美しいと感じたもう1つが、子どもたちへの愛にあふれた祭なんだということです。
「だんじり」というと一般には、おとなが乗って、おとなが引いて、ぶつけ合う、「喧嘩だんじり」という印象がありますが、
津山の場合は、子どもたちを乗せて、おとなが子どもたちを喜ばせるために引く。
そこには「子どもこそ街の宝」という気持ちがあふれていて、美しい、と思いました。

 
▲子どもたちを乗せ、高野神社前を通る「だんじり」(撮影:津山市)

 
谷口:私も、「だんじり」を世にアピールしたいと思っています。
30年ほど前ですけど、私も神輿のほうをかつがせてもらいました。
徳守神社の神輿も素晴らしいですし、「だんじり」を津山の秋の祭りとして、さらにPRしていきたいですね。
 
 
稲葉大賛成です。
ぼくの印象では、見学している方々の多くが市内の方で、市外や県外から、秋の津山の祭りを楽しみに訪れる人はまだ少ないのではないでしょうか。
ものすごく魅力的な祭りであるだけに、もったいないなぁ、という気がして。
津山に残る美しい建築が、実は世界に誇れる宝であるように、
津山に伝わる祭りの美しさもまた、どんどん外に向って発信したいですね。
たくさんの人に見てもらいたいですし、できれば引き手も、乗る子どもも、市外から参加もできるような仕組みを実現してもらいたいと思います。

 

テレビで続々と津山が紹介

谷口:私は市長に就任して今年で6年目なんですが、コロナのせいで実質3年目という感じですね。
それでもこの2年の間に、世間での津山の認知度はすごく上がっていることを実感しています。
それは、稲葉さんにもお世話になっているからですけれども。
 
 
稲葉そう言っていただけるのは大変光栄です。
ですが、津山が注目されているのは、建築だけでなく、ここに来ていろいろな要素が一気にという感じですよね。
津山出身の人材や、津山ならではの郷土料理についても。
先日も谷口市長が東京の墨田区で「つやま和牛」や牛肉料理をPRされたことがニュースになっていましたし。

 

▲2023年5月 東京都墨田区でのイベント開催で、報道機関から取材を受ける谷口市長(撮影:津山市)

 
谷口:お陰さまで東京都内のスポーツ新聞にも取り上げていただきました。
最近の津山も取り上げられ方、大変なものがございまして、テレビでいえば、「ビートたけしのTVタックル」でも、津山の話題が出ました。
 
 
稲葉拝見しました。
番組が、「戻らぬ爆買い中国人観光客」というテーマで進む中、
中国だけに頼らない観光を目指す街の代表例として、フランス人に向けたPRビデオを作成した津山がいきなり登場して、びっくりしたんですが、フランス人向け、というところに、さすが! と感心もしました。
フランス人は歴史や建築に対する関心が、他の国の人たちよりも高いという印象がぼくの中にあるもので。
 
 
谷口:あれは、総務省が進める「映像コンテンツを活用した地域情報発信」の企画として採択されて制作したのです。
ですけどまさか、ビートたけしさんの番組で取り上げていただけるとは思いもしませんでした。
 
 
稲葉やはり、テレビ関係者の人たちにとって津山は今、とても新鮮な魅力あふれる街に映っているということかと思います。
 
 
谷口:実は8月27日に、津山で「NHKのど自慢」もやるんですよ。
最初の数分間、津山の紹介もあります。
 
 
稲葉それはすごい、またまた津山の話題が広がりますね。
 
 
谷口:ここ数カ月で全国ネットのテレビでは、他にも「報道ステーション」や「秘密のケンミンSHOW 極」、「ホンマでっか!?TV」に、それに「ナニコレ珍百景」「中山秀征の楽しく1万歩! 小京都日和」も。
私も結構見ているつもりですが、それでも見逃している番組がありますから、
どこかで、まとめて見られる場所があるといいですね。
 
 
稲葉おっしゃる通りですね。
例えば、10月1日に向けて修繕工事中の作州民芸館が、そういったテレビ番組の情報も発信する拠点となるのも良いですよね。
住民の方々が気軽に立ち寄って、自分たちのことを取り上げてくれたテレビ番組を見られる場としての活用はありかと思います。 

 

5年後、10年後を目指してPR

谷口:先ほど言われていた、祭りの話で言いますと、
本来でしたら通年で力を入れたいところなのですが、予算にも人材にも限りがあるものですから、まずは集中させるという方針でいます。
3月から5月の春の津山を、集中的に売り出すということをやらせて頂いています。
 
 
稲葉まさにその成果が数字に現れてきていますよね。
鶴山公園への入園者数が春の限られた期間に12万人を超えたというのは、本当にすごいことだと思います。
 
 
谷口:ありがとうございます。
今年の12万2千人達成は、過去最高の数字になりました。
「津山まなびの鉄道館」の延べ来館者数が40万人突破も話題ですし、
昨年開催しました夏の「津山納涼ごんごまつり」も、過去最高の人出になりました。
 

▲2023年4月 津山まなびの鉄道館の入館者が40万人達成。右から、稲葉伸次館長、谷口市長、40万人目のご家族の皆さん、大村津山駅長(撮影:津山市)

 
稲葉谷口市長が目指される、通年での盛り上がりが、実現しつつあるということですね。
 
 
谷口:まだまだこれからですが、コロナ禍を超えながら、すごく良い流れができているという実感はあります。
 
 
稲葉「良い流れ」という点で、ご報告したいことが2つあります。
その1つが、先ほどご紹介くださった「住民自身が自慢できる、おみやげグッズ」の開発です。
昨年、城西まちづくり協議会が企画・制作されました写真クリアファイル「津山 美しい建築の街」が、初版3,000部は事前予約時点で完売。
現在、4刷で9,000部、市内で販売してくださっている場所も城西浪漫館や観光センター、ホテルなど、8店舗に増えています。
 
 
▲写真集から生まれた写真クリアファイル『津山 美しい建築の街』

 
谷口:それは素晴らしいですね。
何が素晴らしいかというと、住民の方たちが自ら事業を興したということです。
まさに持続可能な素晴らしい事業だと思います。
 
 
稲葉おっしゃる通りですね。9,000部というのは、今の時代、書籍でもなかなか実現できない、全国の観光地に誇れる数字です。
しかも書籍とは違って、かさばらないので、倉庫代など保管に経費がかからないのが利点ですね。
もう1つのご報告は、児童小説『サクラの川とミライの道』が、埼玉県の推薦図書になって、さらに、岩手県が主催する国語の実力テストの問題にも採用されたことです。
 
 
谷口:津山から東京に転校した小学生が主人公のひとりという物語ですね。
私も読ませていただきました。
 
 
稲葉ありがとうございます。
実は、この小説の中で、津山からの転校生が「さくらまつり」の素晴らしさを、東京の友だちに熱く語る場面があります。
しかも、すべて津山弁で。
この本では、「さくらまつり」の魅力と合わせて、津山弁の温かさを、読んでくれた子どもたちに伝えたいという気持ちが、著者であるぼくの中にあったものですから。
 
 
谷口:稲葉さんが物語の中で書かれていた、鶴山公園の桜のことを「桜のじゅうたん」という表現は、子どもたちにも伝わりやすいですよね。
 
 
稲葉はい、その子は津山弁で、「ほうじゃ、桜のじゅうたんじゃ」と東京の友だちに自慢するんですが(笑)
お城と桜並木を観光名所としてPRしている街は全国に多いですが、津山の場合は、石垣の上から、まさに「桜のじゅうたん」を鑑賞できる貴重な街なんじゃないかと思って、それを全国の子どもたちに伝えたかったんですね。
 
 
谷口:たしかに、「桜のじゅうたん」と言えるほどの桜並木を見下ろすお城となると、そうはないかもしれませんね。
 
 
稲葉この5月には、津山市の推薦図書としても、教育委員会の有本明彦教育長に選んでいただきまして、こころから感謝しています。
ありがとうございました。


▲津山市推薦図書「サクラの川とミライの道」


2023年6月 津山市立の全小中学校に各1冊、津山信用金庫 
松岡裕司理事長 から、津山市 有本明彦教育長 に寄贈された(撮影:津山市)


▲各学校に寄贈された本はすべて、稲葉さんの直筆サインとメッセージが入っている(撮影:津山市)

※有本明彦教育長からの推薦文はこちら


谷口:津山の魅力を知ってもらえる本として、ぜひ多くの子どもたちに読んでもらいたいですね。
 
 
稲葉この津山弁満載の物語を読んでくれた埼玉県や岩手県をはじめ、全国の子どもたちが、5年後、10年後に、津山を訪れて、同じように子どもの頃にこの本を読んでくださった津山の人たちと交流ができたら、著者としてはこれ以上ないほど幸せなことです。
 
 
谷口:5年後、10年後を目指して、さらに津山の魅力を発信していかないといけませんね。
 
 
稲葉今まさに、勢いある流れがあるだけに、ますます期待が高まります。
 
 
谷口:コツコツと努力して、地域共々頑張っていきたいと思っていますので、今後もよろしくお願いします。
 
 
稲葉こちらこそ、微力ながら引き続き、津山に住む方々と観光促進につながることを発信していくつもりですので、どうかよろしくお願いいたします。
 
 
谷口:長時間、ありがとうございました。
 
 
稲葉ありがとうございました。






 

津山市みらい戦略ディレクター 稲葉なおと



© 2022 SeizoTERASAKI

 
東京工業大学建築学科卒業。一級建築士。建築家を経て作家・写真家としてデビュー。500軒以上の名建築宿に宿泊取材した体験を元に、旅行記、写真集、小説、児童小説を刊行。JTB紀行文学大賞奨励賞受賞。日本建築学会文化賞受賞。2月刊行の講談社文庫・小説『ホシノカケラ』は、児童小説『サクラの川とミライの道』、写真集『津山 美しい建築の街』と共に津山三部作として話題に。他にノンフィクション『夢のホテルのつくりかた』など著書多数。
 

津山市長 谷口圭三


 
平成30年(2018)2月から津山市長に就任。現在2期目。
 

この情報に関する問い合わせ先

津山市 秘書広報室(広報)
  • 直通電話0868-32-2029
  • ファックス0868-32-2152
  • 〒708-8501岡山県津山市山北520
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