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連載「津山 美しい建築の街 再発見」第2回(全4回)

       
       
2023年「津山さくらまつり」のポスター
   
# 稲葉なおと # インタビュー  # 津山美しい建築の街 # 津山まちじゅう博物館構想
 

城西浪漫館2階「浪漫館ギャラリー」で、谷口圭三市長と、津山市みらい戦略ディレクターの作家・写真家・建築家 稲葉なおとさんが対談しました。
 
そのダイジェストは「広報津山2月号」に掲載しています。全文をこちらに掲載します。
 
テーマは、「津山 美しい建築の街 再発見
 
全4回にわけて、奇数月(1月・3月・5月7月)10日に掲載します。

今回は、その第2回。

※連載 第1回はこちら→「津山の建築の魅力とは

※連載 第3回はこちら→「住民が自慢できる街づくりを

※連載 第4回はこちら→「美しい祭りの街・津山

 
 
目次  

「津山さくらまつり」成功への道
 
 

 

第2回 建築再活用を得意とする街 津山

 

「津山さくらまつり」成功への道

 
谷口:稲葉さんは、写真家であり、小説家でもありますが、建築家としての専門の立場から、建築の維持と活用についても、ぜひご意見をいただけますか?

 
稲葉:建築を永く活かすためには2つのポイントがあるのですが、それはまさに今、谷口さんがおっしゃったことかと思います。

1つが、維持し保存していくこと。
もう1つが、その維持保存された建築を、いかに活用していくかということです。
 
 
谷口市内に残る貴重な建築を永く、次の時代にも活かしていくためには、その2つのポイントが重要ということですね。
 
 
稲葉そうです。
 
 
谷口津山においては、いかがですか?
 
 
稲葉写真集『津山 美しい建築の街』の前半3分の2は写真のページ、後半は「津山建築史」を書いたのですが、歴史を紐解いていくと、津山は本当に明治の時代から「再び活かす」ということを得意とする街だったんだなぁ、と感じました。

いうなれば、建築の持つ力、建築の文化を理解されている方が数多く、この街には存在したということかと。
 
 
谷口それは私も住民のひとりとして、とても誇らしいお言葉ですね。
 
 
稲葉はい、調べながら、とても誇らしく思いました(笑)。

妹尾銀行林田支店が、ポート アート&デザイン津山として、美術の企画展示スペースとして、中島病院本館と土居銀行津山支店がそれぞれ、「まちの駅 城西浪漫館・作州民芸館」として再活用されていますよね。

建築は活かしてこそ、その魅力を永く、次の世代に伝えられることを実感しました。

▲城西浪漫館で歓談する谷口圭三市長(写真左)と稲葉なおとさん(同右)
 
谷口お陰さまでこの1年の間に、市内には、室町、江戸、明治、大正、そして昭和に建てられながら、今も現役で有効活用されている建築が数多いということ、住民の方々の間にも、認識が広がっているように感じています。
 
 
稲葉津山の建築で再活用という点で、もっとも成功している例が、津山城の有効活用ではないでしょうか。

明治6年の廃城令によって、石垣以外がこの世からすべて消えてしまったかと思うと、実際には、門は中山神社の神門に、貴重な紫陽花の襖絵は、長法寺の阿弥陀堂に残されていて、今も観賞できるというのが素晴らしいです。
 
 
谷口たしかに、津山城の遺産は、今では貴重な観光資源になっています。
お陰さまで2022年「津山さくらまつり」では、鶴山公園への入園者が10万人を突破しまして、今年も3月25日から始まりますが、さらなる集客が期待されています。
 
▲鶴山公園、2022年入園10万人突破記念式典で祝辞を述べる谷口圭三市長(撮影:津山市)

稲葉その賑わいは、撮影者のひとりとして日々感じていました。
津山城の観光資源としての最大の活用例は、まさにあの石垣です。

石垣を再活用した鶴山(かくざん)公園が明治時代に開園して、その後、篤志家による植樹をはじめとして、延べ2,000本以上の桜の植樹がされて、現在のような、まさに津山にしかない花見ができる観光スポットになったわけです。

平成の時代になって、備中櫓(びっちゅうやぐら)が復元されたことでさらに写真映えするようになって、将来はそこでの宿泊も検討されるというように、お城再活用の歴史は今も継続中ですよね。

再活用の継続がまさに、入園者数の継続的な増加につながっているのかと思います。

 
谷口津山城を例に再活用の歴史を整理してもらうと、我々津山の住民も、この街の素晴らしさ、誇らしさを感じられる気がしますね。
 
 
稲葉児童小説『サクラの川とミライの道』の中で、津山城の、あの見下ろせる桜並木の魅力を、「サクラのジュウタン」と、子どもにもわかるように表現したのですが、まさに全国に誇れる再活用の例かと思います。

昭和を代表する名建築、津山文化センターにしても、建つまでの11年に及ぶ苦闘の歴史には凄まじいものを感じましたけれども、建ったあとも、市が主導されて活用の歴史を刻まれてきましたよね。
 
 
谷口津山国際総合音楽祭ですね。

オーストリアの作曲家グスタフ・マーラーの曲を主題に30年間継続した大きなイベントだったのですが、2017年に第10回の公演を機会に、私は今後の方針を見直そうと、いったん休止を決断しました。
 
2024年には、音楽のみならず、舞台芸術やアートなどの芸術ジャンルを取り込んだ、津山総合芸術祭として再スタートを切る予定です。
 
 
稲葉それはまた楽しみですね。

総合芸術ということでしたら、競技ダンス、一般には社交ダンス、ですね、そちらも音楽といっしょにぜひ取り上げていただけたら。

 

世界に誇りたい4人の津山人

 
谷口稲葉さんは、競技ダンスの写真展もされていますよね。
 
 
稲葉撮り始めた当時の小学生ダンサーが、今ではテレビでも活躍する有名ダンサーになったりして、成長ぶりが楽しみなんですが、津山出身の有名選手もいますから。
 
 
谷口野村直人さんですね。
新聞で活躍ぶりを拝見しました。
 
 
稲葉野村選手のダンスを初めて観たのは、彼が大学4年生のときの学生競技会だったんですが、競技ダンス部主将として他校の下級生たちからも、大声援を受けていたのが印象的でした。

でもそのときはまさか、彼が津山高校出身とは想像さえしていなくて、知ったのは随分あとになって、彼とのふとした会話からでした。

父の高校の後輩と知ってからは、応援にもさらに熱が入りまして(笑)、

野村選手は昨年、山﨑かりん選手とともに有名競技会で2度も日本一に輝いて、今年の3月にもまた別の競技会で優勝。

ダンス界では大きな話題になりました。

ぜひダンスも加えた芸術イベントを津山で実現してくださったら、と思っています。

▲競技ダンサー/野村直人選手・山﨑かりん選手(撮影:稲葉なおと)無断転載禁止

 
谷口音楽とダンスの芸術祭。
前向きに検討したいですね。

最近は、建築に加えて、料理、文化、そして人材といった様々な面から津山がスポットを浴びる機会が多くなっています。
 
 
稲葉まさに、「まちじゅう」が「博物館」になりつつあるという流れですね。
 
 
谷口先日も稲葉さんが写真集の中で撮られていた「桐の木水車」を、中学生が水彩画に描いて、その絵が日本ユネスコ協会連盟会長賞を受賞しました。

水車は、市内のおとなでも知る人ぞ知る存在ですが、その建築に中学生が注目してくれて、全国的な賞まで受賞というのが、津山にとって本当に誇らしいことだと感じています。
 
 
稲葉それは本当に、嬉しいですね。
 
昔ながらの津山の建築に、中学生が関心を寄せてくれれば、建築を大切に活かそうという志が次の世代へと受け継がれていくわけですから。
 
 
谷口描いたのは中学3年生で、ドルーリー朱瑛里(しぇり)さんというのですが、彼女は陸上の中距離、長距離部門で記録をどんどん塗り替えている逸材です。
 
 
稲葉陸上だけでなく、実は絵画でも、だったんですね。

先日、商工会議所女性会創立50周年記念式典にお声掛けいただき出席したのですが、谷口市長も来賓のスピーチで、お話をされていましたよね。


谷口はい、全国の商工会議所女性会200名超の方々が一同に会する、50周年という盛大な式典でした。

津山を発展させ、名を残した人だけでなく、陰となり日向となり、ともに支え合った女性の活躍を忘れてはならないというお話をさせていただきました。

津山商工会議所女性会創立50周年式典にて登壇の谷口圭三市長(撮影:津山市)
 

稲葉私も会場の隅で拝聴させていただき、式典のあとに、「世界に誇りたい津山の魅力」というテーマで講演をしたのですが、世界に誇りたい15の津山建築とともに紹介したのが、世界に誇りたい4人の津山人、津山出身の人でした。
 
ひとりは、ミュージシャン・B’zの稲葉浩志さん、ひとりは俳優、映画監督のオダギリジョーさん、その次に、ドルーリー朱瑛里さんの名前を挙げさせていただきました。

そして最後にもうひとりが、先ほど名前が出た、競技ダンサーの野村直人さんでした。

 
谷口私も周囲から、津山の名前を最近よく耳にしますねという言葉をかけられる機会が増えていて、本当に嬉しく感じています。

お笑いの世界でも、最近話題ですからね。
 
 
稲葉ウェストランドの井口浩之さんと、河本太さんも津山出身ですね。

住民の中から、全国に誇れる逸材が出てきているわけですから、そうした方々の活躍の場としても、建築の将来は本当に明るく感じます。

 

建築の再活用に失敗しないためには?

 
谷口稲葉さん自身は、維持と活用についての成功例はもちろんですが、うまくいかなかった例もたくさん見られているということでしょうか?
 
 
稲葉はい、とても残念なのですが。

失敗例には大きく、2つのパターンがあります。
1つは、再活用の目的ははっきりしているのに、例えば、○○資料館というような名称で再活用しようというように、ですね。

ところがサイン計画やインテリア計画にまで配慮が行き届かなくて、ゴチャゴチャな印象がして建築としての魅力が半減してしまったケースが数多く見受けられます。

もう1つは、著名な建築家などに任せっきりにしたために、不要な段差があったり、遮音性に問題があったりして、とても使いづらい改修や改築になってしまったケースですね。
 
 
谷口そういった失敗への道を歩まないためには、どのような点に気を配ればよいのでしょうか?
 
 
稲葉市の責任者、利用される住民の方々ご自身が、こう活用したいという明確なイメージを持つことが重要かと思います。

建築家やデザイナーは、そのイメージをさらに色付けして、さらにプロならではの素晴らしい計画案を提案するのが仕事なのですが、最初からお任せしてしまうと、建築家やデザイナーのための建築になってしまって、住民の方や観光客のための再活用建築にならなかったりします。
 
 
谷口それは、今後の市内の大切な建築を活かしていく上で、とても重要な姿勢ですね。
 
 
稲葉はい、そう思います。
 
 
谷口最初に言われていた、建築を永く活かすためのもう1つのポイント、維持し保存していくことについては、気を配ることはありますか?
 
 
(以下次号)



※連載第1回はこちら→ 津山の建築の魅力とは

 

津山市みらい戦略ディレクター 稲葉なおと



© 2022 SeizoTERASAKI

 
東京工業大学建築学科卒業。一級建築士。建築家を経て作家・写真家としてデビュー。500軒以上の名建築宿に宿泊取材した体験を元に、旅行記、写真集、小説、児童小説を刊行。JTB紀行文学大賞奨励賞受賞。日本建築学会文化賞受賞。2月刊行の講談社文庫・小説『ホシノカケラ』は、児童小説『サクラの川とミライの道』、写真集『津山 美しい建築の街』と共に津山三部作として話題に。他にノンフィクション『夢のホテルのつくりかた』など著書多数。
 

津山市長 谷口圭三


 
平成30年(2018)2月から津山市長に就任。現在2期目。
 

この情報に関する問い合わせ先

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